=主人公の資格=

<自己紹介に変えて>

今から20年ほど前、私はシナリオ養成講座の塾生だった。講座の先生はその当時、70歳代、若い頃より松竹の脚本や作家の養成に尽力された方だった。塾は東京の東陽町で月一開催されていて、私は茨城だった事もあり、先生とは、お電話でのお付き合いも多かったのが、まぁ電話口で、実にこっぴどく叱られた。ただ、好き!と言うだけで飛び込んだのだ、今でも、結構思い切った事をやったなぁと思っいる。

まずは、プロット(あらすじ)を書いて、先生に見せる、それがOKになると初めてシナリオに起こせる、こんな感じで進んでいくのだが、「これは、ただのお話で、シナリオではないよ」。「この人物は主人公にはなれないよ」。この言葉は実に多くの塾生がガツンと食らう一言で、シナリオを書かせてもらうだけでもかなりハードルが高かったのだけれど、先生から教えて頂いた数多くの事柄の核となるものの1つは、やはり「主人公の資格とは、」だったのではないかと思っている。

ストーリーにもよるけれど、基本、物語の主人公は泣いたり笑ったり、七面相を繰り返していなければならない。「主人公のアキレス腱を容赦なくつつくんだ、それによって泣き叫ぶところを視聴者は観たいんだから」。そりゃまぁそうだなぁ、と言われた時は安易に思うのだけれど、これが中々のくせ者で、私のアキレス腱キックは実に「甘かった」。これでは足りない、とよく指摘を受けた。

先生の講義はシナリオ以外にも、映画界の大御所監督のお話や、古き浅草界隈で浮名を流された話など、楽しいお話もたくさんだったけれど、何よりも、脚本と言うモノの本質を鋭い視点で語っておられ、これぞ、目から鱗。それが本当に面白かった。気がつけば、いつも、ストーリーを考える生活を送っていたし、先生とのやりとりは、ほんとにだめだしばかりだったと思うのだけれど、時々、「やった!、判った!」と、思える瞬間があって、それが癖になる面白さだった。

けれど、塾生になって、4年を過ぎた頃、私の夢はあっけなく終わった。
先生に吐いた一言「もう、書けません」。
「そうか」、先生はそう言われて、それから、
これから一人でやっていくに当たっての注意事項を箇条書きの様におっしゃって、
実にあっさりと、私の手を離された。

あれから随分と時が過ぎて、私は今還暦少し超える歳となっている。

先日、引き出しの整理をしていて、先生から頂いた手紙が出てきた。私が送った原稿に添えられたものだけれど、それが、実に温かい励ましの言葉で、少し、驚いた。
「簡単に諦めてはいけないよ」「頑張るんだよ。楽しみにしているよ」

これを読まれている最中にもシナリオとハーブとどこに共通点があるのか?
と思われる方もいらっしゃると思う。
昔から、一人遊びが好きで、友達と居るよりも、家で手芸やお菓子作りを作る事が楽しい子供だった。その延長線上に、実がシナリオもあり、このハーブもある。テレビドラマや、シネマを観て、自分で好きだなぁと思う、それで完結してもいいのだけれど、これを判ってくれる人はいるかな?。ハーブに触れたり、クラフトを作る、少しささくれ立った心が癒された事に気がつく瞬間がある、これを判って思ってくれる人いる?。一人で居ようとする人ほど、寂しがり屋だと聞いた事がある。たぶん、それなんだと思う。

シナリオを書く事を止めてから、しばらくは、私は、「もっとできたのではないかとか」、とか、「そもそも、私は真摯に向き合っていたのか?」とか、「結局なにもできない人間だ」とか、随分、自分に自問自答を繰り返し自分を責めた。だけれども、今、久々に先生の手紙を読み返した時、あの時、最後に先生がおっしゃっていた言葉がふっと蘇った。「どうにかしてあげたかったんだよ。君が一番、提出が多かったし、早かった」。

1つの事を始めると、善くも悪くも自分を追い込んでしまう。先生はそんな私に少なからず、向き合って下さっていたと言う事だ。でも、この言葉をこれまで私は無意識に抹消していた。優しく言って下さった一言だったハズだ。でも、自分の挫折にばかり気が行って、この言葉は当時の私には響いていなかったし、受け入れられるものではなかったのだと思う。

コロナ禍の折、先生が亡くなられたとの喪中はがきを頂いた。

よせばいいのに、そんな声も聞こえてくるが、今度はハーブを仕事にと考えた。
グリーン。キラキラしたものが強いハーブの世界。
それが、イメージだとしたら、
私の扱うハーブは少し、違うかもしれない。

それでも、ハーブであれこれ、クラフトを考える時間。
ティーとともに、心に耳を澄ませる時間。
それが、ささやかだけれども私にとって、豊かなひとときとなっている。
私は、そんなハーブの世界に、今、身を委ねている。

慌ただしい日々の中で、
今でも、しょちゅう、生真面目モードが発動し、
周囲に迷惑かえる事もある。
それでも、
ハーブと共に、一人の時間もゆっくりと味わいながら、
これからくる老後に どう向き合って どう生きていくか。
自分自身の小さな物語が語れたらいいなぁ、そんな風に思っている。

これまで、私に寄り添ってくれた方々へ——
心から感謝を。





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